2010年09月06日

「キャタピラー」を観てきたのそ

 9月1日は映画の日だったので、仕事を終えてから友人と
キャタピラー」を観に行ってきました。
静岡シネギャラリーという小さな映画館でしたが、ほぼ満席でした。

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キャタピラー



 日中戦争のさ中、勇ましく戦場へと出征していった、シゲ子(寺島しのぶ)の夫・黒川久蔵(大西信満)。
しかし、ある日、久蔵が戦地から帰ってきた。
顔面は焼けただれ、四肢を失い、耳も聞こえず、まともに声も出せない
無残な姿になって・・・。
多くの勲章を胸に、「生ける軍神」と祭り上げられる久蔵。
四肢を失っても衰えることの無い久蔵の旺盛な食欲と性欲に、シゲ子は戸惑いつつも
軍神の妻として自らを奮い立たせ、久蔵に尽くしていくが・・・

 監督は「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」の若松孝二。
シゲ子を演じる寺島しのぶは、本作で第60回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞した。
(84分)
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 原作は江戸川乱歩の「芋虫」なのかな?と思っていたのですが、戦争へ行って
芋虫(キャタピラー)のような体になって帰ってきた夫と、その世話をする妻
・・・という設定が同じで、最期に至るまでの経過は違う作品のようですね。
調べてみたら、著作権料などの問題によりそのまま映画化することが出来ず、
最終的には「乱歩作品から着想を得たオリジナル作品」としてクレジットから
乱歩の名前を外したようです。
※詳しくはウィキペディア「芋虫」をご覧下さい。

 今回の映画の感想を書こうと思うと、どうしても映画の内容に
触れてしまうことになりますが、御容赦下さい。 


 いきなり、戦地で日本軍兵士(久蔵を含む)達が中国人女性達を
レイプするという衝撃的なシーンから始まったので驚きました。
戦争という特殊な状況の中でありながら、それを当然のことと思っていた
傲慢な男が、四肢を失い、1人ではとても生きてはいけない状態になって、
すべての面倒を妻がみることになります。
夫は「軍神様」と奉られ、周りの人々はなにかあるごとに「お国のため」と
いう、この時代にはすべてそれで片付けられてしまった便利な言葉を
連発し、「軍神に仕える妻」という立場に縛られたシゲ子は、
それでも献身的に夫の世話をします。
出征前の夫には毎日のように殴られて「石女!」と罵られていた妻は、
寝て、食べて、性欲処理を要求するだけの夫にうんざりするのは
当たり前。
(久蔵・・・口に鉛筆をくわえ、何を訴えようと必死になっていると思えば、
書かれている言葉が「ヤリタイ」なんだもの(-_-;))
人間は四肢がなくても、こんなに元気で、動けるものなの?と、
かなりびっくり。
 しかし、そのうちに文字通り手も足も出せない夫と妻は、すっかり
立場が逆転してしまいます。
夫をリアカーに載せて村を歩くと、「軍神様」と拝まれ、彼への献身を
讃えられ、自分さえも特別な人間になったような気持ちになった
シゲ子は、奇妙な高揚感を覚え始め、嫌がる夫の上にまたがり、
「逆レイプ」さえするような状態になります。
(男性にその気の無い場合は、これは成立しませんが。)
しかし、そんな妻の姿に、自分が戦場で犯した罪が重なり、
久蔵は体感することによりやっと自分のしたことのむごさや恐ろしさに
気づくのですね。
戦争は、国が国を侵すもの・・・
戦争というものは、男が女を犯すことと同じなんだなと思いました。

 寺島しのぶの思い切った脱ぎっぷりなども話題になっている映画ですが、
脱いでいるだけなら、以前観た「愛の流刑地」の時の方が、
もっと裸体を晒していたと思います。
(このときは、きれいに、きれいに・・・という感じでしたが。)
最近よくTV番組に出演し
「映画に必要だから脱いでいるのだ。
中途半端に隠したりなんかしたくない!」
と語る彼女の演技は、泥臭く、迫力もありました。
言葉だけでなく表情が豊かで、全身でぶつかっていった彼女の演技だから、
言葉も習慣も違う外国人の心を捉え、ベルリン国債映画祭で主演女優賞を
獲れたのでしょうね。

 映画自体は重苦しいものであり、劇場を出る人々は皆無言でした。
気分が落ちているときに観る映画ではありませんね。

のその感想・・・9点(10点満点で)


 この映画はR15指定ですが、その割には男女の表現も生生しいし、
観た直後よりも、夜布団の中でいろいろ考えていたら、結構
深い映画だったんだなぁ・・・と眠れなくなっちゃいました。
高校生は500円の特別料金で観れるようですが、R18にした方が
よかったんじゃないかな?

 映画の中で、頻繁に戦争中の映像や、この時に何人亡くなった
とかの字幕が出て、さらに反戦映画っぽくなっていましたが、
エンディングで流れた、元ちとせさんの「死んだ女の子」という曲が
印象深かったです。



すごくいい曲なのですが、重くて、さらに終わった後の気分が
落ち込んだような・・・。
この曲を聴いて、この映画は反戦映画として作られたんだと
確信しましたが、メインは男女の性だと思います。
舞台が戦時中としても、データを使って無理に反戦色を出すことは
なかったのではないでしょうか?
「こんな時代に生きてなくてよかった。
戦争なんて、二度と起こすものじゃないな。」
と感じさせただけで、十分に反戦映画という役割は果たしていると
思います。
  

Posted by のそ at 14:18Comments(0)映画